煤まみれの騎士 【ラノベ感想】

2024年7月25日

煤まみれの騎士
著:美浜 ヨシヒコ
イラスト:fame
出版:電撃の新文芸

  煤まみれの騎士

アマゾンのあらすじより

知勇ともに優れた神童・ロルフは、十五歳の時に誰もが神から授かるはずの魔力を授からなかった。
彼の恵まれた人生は一転、男爵家を廃嫡、さらには幼馴染のエミリーとの婚約までも破棄され、騎士団では"煤まみれ"と罵られる地獄の日々が始まる。
しかし、それでもロルフは悲観せず、ただひたすら剣を振り続けた。
そうして磨き上げた剣技と膨大な知識、そして不屈の精神によって、彼は襲い掛かる様々な苦難を乗り越えていく──!
騎士とは何か。正しさとは何か。守るべきものとは何か。そして彼がやがて行き着く未来とは──。
神に棄てられた男の峻烈な生き様を描く、壮大な物語がいま始まる。

感想

艱難辛苦に立ち向かう男。愛よりも剣をとった不器用な騎士の物語です。「ざまぁ」の様式美なんて知ったこっちゃないとばかりに1巻丸々、煤にまみれて不遇をかこいつづけます。
己の信じた道を行く主人公が、カッコよく心の底から応援したくなりました。面白かったです。

 

主人公のロルフは、魔力を一切持っていなったばっかりに廃嫡&婚約解消。行く先々で魔力なしだからと見下され、虐待ともいえる騎士生活での差別に耐える日々です。
魔力なしに対する偏見は、かなり強烈でした。いわゆる追放系作品の理不尽シーンが、ずっと続いているかのごとく苦難のシーンが繰り返されてます。

ただ相手が、見下してくるのなら私も平気でした。でも己を貫いて恥じに耐えるロルフの姿を見て、妹のフェリシアの目から徐々に尊敬の色が失われていくんですよね。最初は慕っていた兄にフェリシアが、だんだんと嫌悪感を抱いていく姿はなんとも心にきました。
唯一の理解者である元婚約者の前でも魔力なしの自分が、身の程をわきまえないと彼女に責がおよぶって言ってしまう主人公です。上司と部下の関係に徹して甘いシーンなんてなしですよ。

 

なんですかね。ロルフよ言いたいことと理屈は、まぁ分かる。でももっと彼女たちの気持ちに寄り添ってやれないのか? と読んでいて感じてしまいます。なんとも不器用な主人公なんですよ。

 

それでもロルフに感情移入してしまうのは、彼の信念があるからです。剣を極めれば魔力なしでも道は開けないか? 国のため味方のために己の身を危険にさらすことを厭わない。突き抜けた信念からくる行動の積み重ねが、とてもかっこいんです。
悲劇的な英雄って応援したくなりますよね。そんなお話です。

 

  • 困難な敵前において最高の勇気をみせる
  • 傷つき倒れてもなお立ち向かう
  • 英雄と呼ばれるに相応しい戦果をあげる

 

信念からこんな行動をとるのがロルフです。それでも魔力なしとして迫害・差別をされて評価されません。
だがそれでも良いんですよ。それでも良いと思えるような面白い作品です。

 

主人公にストレスのかかる展開が、苦手だったりするとNGって人も出そうです。
ある程度、読み手を選んでしまう作品ですが、悲劇的な英雄譚ときいて気になった方には、是非ともオススメです。

 

2巻目の感想

あれだけ献身的に尽くしたロルフに待っていたのは、最前線でした。騎士団の世界から移っても魔力なしへの迫害は、離れることがありませんでした。

1巻目の悲壮さは相変わらずです。妹ちゃんからの好感度は、下がりまくりです。
その一方で魔力を持たない平民は、魔力なしへの偏見をもっていません。だからロルフ+平民の組み合わせは、良い具合にかみ合っています。迫害する人たちばかりじゃないんだなと知る2巻目でした。

その他にも戦争奴隷となった魔族の少女ミアをロルフが、買い上げて助けるシーンです。ここでは人間から過酷な扱いを受けたミアをロルフは、保護して魔族への偏見なく接していきます。その過程でミアは、元気に明るくなっていくんですけれど、迫害をうけた身ってのは、1巻目からのロルフも全く同じな訳です。
ロルフとミアの境遇が、重なって見えました。そしてロルフの信念の異常なまでの強さってのも際立って感じられました。

 

人間と争っている魔族サイドも実は、結構苦労していることが明らかになった2巻目です。
ラストではついにロルフのターンがやってきましたし、このあたりからロルフは、英雄へと歩み始めるのでしょうか?

後半は重い一撃が、連打されてくるような熱い展開です。ぜひ読んでみてください。

 

3巻目の感想

ついにロルフは騎士として認められました。彼の騎士道が理解されて英雄として受け入れられたんです。
戦いの進言をすればちゃんと採用されますし、戦友からは称賛の声で向かい入れられます。やっとやっと一人の騎士、ひとりの人間としての居場所ができました。いやぁここに至るまで長かったね。

なんですけどねぇ。

これでロルフが反逆者の立場でなければ……いうことなしだったんです。本当であったから同じ態度で接してもらって言葉をかけてもらいたい人々からは、より一層強い敵を向けられているんです。
このやるせなさは、本作らしいテイストだと感じます。

なにしろ3巻目で最大のイベントは、ロルフとフェリシアで命を取り合う兄弟げんかです。これまでに妹ちゃんのお兄ちゃん助けたい&がんばってな思いを読ませてもらってのコレですからね。可愛さ余って憎さ百倍、英雄同士の真剣バトルは熱くもあり悲しくもありました。

 

4巻目の感想

妹ちゃんと再会した次は、顔なじみの騎士団長や回復術師のシーラに再開です。1巻目の頃だと全く歯の立たなかった同僚騎士をロルフが、努力して身につけた剣の技で打ち倒すあたりはようやくのスカっと到来ですね。訓練と努力は裏切りません。

そして今回も人間サイドや権力者が、魔族にひどいことをしまくるのは変わらずです。ただそこに何故こんなにまでひどいことをするのか? それから魔力がないというだけでロルフも迫害されるのか? この疑問が明らかになりました。

理由には納得です。でも本作のテイストから想像するに……今後の戦いが一層凄惨になりそうな予感しかしません。いやぁどうなるんだろ。

あとこの巻に久しぶりの癒しがありました。それはロルフと元傭兵剣士との旅です。
その剣士ときたら子供を害することには、ロルフのように激しく抵抗する善良な面も持っています。でもそれでありながら戦いでは喜々として敵を切りにいきますし、口も悪くてセリフだけ見ているとまんま野盗です。

そんな彼なのでロルフと接しても自然体です。時に軽口をたたいて、時には言葉少なく通じあう。男同士の友情ってやつですね。人付き合いに慣れてないロルフが、彼に感じた感情を整理しきれていない様子もまた良かったです。

5巻目の感想

今回はボトルシーンが目白押しでした。

居場所を見つけたロルフですが、まだまだ苦悩は続いていきます。これまではロルフの苦悩にフォーカスが当たる展開が何らかあったのに比べて、5巻目はロルフと行動を共にするようになった仲間たちの活躍が多めでした。読んでいると孤独な戦いしかできなかったロルフに、仲間がこんなにできたんだと感慨深いです。

5巻でメインとなるバトルも仲間たちは強いですし、相手となる敵の騎士団や術士も強いから熱い展開がずっと続きます。バトルシーン好きならきっとテンション上がりまくりの巻じゃないかと思います。

そして巻の途中ででてくる孤独な女性マレーナも面白かったですね。彼女もロルフのように不当な扱いをうけて、孤独をさいなまされています。
しかし境遇こそロフルに近くても彼女は、彼ほどは強くないんです。ある意味マレーナは普通の人の感覚に近いです。
そんな彼女が理不尽すぎる仕打ちに対してとった勇気ある行動には、おもわずグッときてしまいました。

あとがきまで入れて全489ページ。圧倒的な満足感でした。

 

煤まみれの騎士 I (電撃の新文芸)
美浜 ヨシヒコ
KADOKAWA
2022-03-17

 

 

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