濁る瞳で何を願う ハイセルク戦記【ラノベ感想】
濁る瞳で何を願う ハイセルク戦記
著:トルトネン
イラスト:創-taro
出版:Kラノベブックス
アマゾンのあらすじより
平凡な会社員だった高倉頼蔵(たかくら らいぞう)は、ある日、心筋梗塞によりその生涯を閉じた。
しかし、彼は異世界で第二の生を得る。強力なスキルを与えられた転生者――ではなく、周囲を大国に囲まれた小国・ハイセルク帝国の一兵卒として。
ウォルムという新しい名で戦争の最前線に投入された彼は、
拭え切れぬ血と死臭に塗れながらも、戦友たちと死線を掻い潜っていく。強力な魔法を操る冒険者パーティ、圧倒的な力ですべてを焼き尽くす「勇者」と持て囃される転移者たち。
彼らとの死闘の中、ウォルムは平時では目覚めることの無かった戦士としての才能を徐々に開花させていく。その瞳を暗く濁らせながら――。
感想
泥と汗と血にまみれ、野蛮な暴力が連続な世界です。今日の戦場を生き抜いた先には、より最悪な戦場が待っています。
そんな泥臭くて救いのない戦場で、戦士として成長していくストーリーです。
ものすごく面白かったです。戦場での日常とか兵隊心理の描写に引き込まれましたね。一兵卒視点で勇者とは、対極的な戦場の姿にしびれました。
web投稿のダークファンタジーでも相当に異色作です。好きな人に深く深く刺さるかわりに、そのターゲットは狭くなっています。非常に尖った作品ですよ。
「装甲騎兵ボトムズ」の冒頭シーンを暗記してしまっているような層に、クリティカルヒットしな最悪の戦場の数々を楽しめました。
異世界転生した主人公は、かなりスロースターターで物語の前半だとほぼ普通の人です。運に恵まれて生き残れたようなもんです。
後半になると主人公も力に目覚めますが、それでも英雄でなく戦場の強い戦士といった扱いで、主人公すら戦場を彩るコマの1つって硬派な展開になっています。
一般的なファンタジーラノベだと個として強くなって、集団を圧倒するのが普通なところ。でも本作は個は強くても、絶対じゃないというのが面白いです。
敵も味方も数ページ先で、どうなるか読めない面白さがあります。
攻城戦とか布陣とかの描写も凝ってるのも楽しかったです。作者さんは歴史オタでもあるんですかね?
日本の戦国時代にみられた築城とか、城攻めの方法が丁寧に描かれていて、戦場の最悪さに彩りを与えてくれていました。
基本的に殺伐として潤いはない物語です。ところどころで女性キャラも出てくることもあります。でも戦いに勝ち生き残ることこそが優先です。1巻目だと恋愛なんてまだまだって気がします。
なんと2022年10月にめでたく2巻目の発売が決まっています。1巻ラストでの気になりすぎる続きを読めるんですから、これは買うしかありませんね。
全員にはオススメしません。ただ泥臭く命がけな異世界を、読みたい方だったら強くオススメです。
2巻目の感想
主人公のウォルムなんとか生還しました。その後にタイトルにある「濁る瞳」の伏線回収もきます。
なるほどー。悲壮感だらけのストーリーにピッタリで、タイトル後半の「何を願う」の部分もどこにかかっているのか気になりますね。
ちょっとだけネタバレをはさむと、1巻目の終盤の時点で主人公はかなり強くなっています。一般兵による数の暴力では止まりません。そのため冒険者みたいな特殊能力持ちが、敵となって立ちふさがってきます。だから私は2巻目は英雄とか将軍クラスのバトル展開かと予想していました。ところがそれは大ハズレでした。
2巻目は魔物との生存をかけた大戦争です。帯には”帝国滅亡”とまで書かれるぐらいのスケールになっています。
絶望的な戦況、圧倒的な戦力差、しかし降伏は許されない。兵たちは戦い続けるしかない。
絶望的な戦いが続くしかなくて、これぞ戦記物って楽しさでした。
分かりにくいたとえをするなら「44年以降の東部戦線」です。
「今日も勝った。昨日も一昨日も勝った。にもかかわらず我々は後退し続けている」なんて、勝ち目のない展開に燃える方へオススメです。人類に容赦なさ過ぎてスゴかったです。
3巻目の感想
2巻で魔物とあれだけ凄惨な戦いをしたってのに、生きるためには人間同士の殺し合いへ身を置くしかない主人公に、業の深さを感じてしまいました。敗残兵と化した主人公が、立ち直ろうと決意して選んだ道は傭兵なんですよね。やっぱり修羅の道です。
3巻目でウォルムが立った戦場は……またまた悲惨でした。
表紙に映っているチビっ子は、なんと少年兵です。ベテランで年上の主人公が、幼い少年兵を護り育てる燃える展開ですね。ですけどね、本作の厳しさだと血みどろな戦場で油断できないんですよ。彼らが心配で一気読みしてしまいました。
ウォルムの父性みを感じられたのは、新たな一面で面白かったです。
後半は国を渡って冒険ファンタジーっぽい感じかな?
ウォルムにとって安らげる地は見つかるのか、この先もまた気になります。
4巻目の感想
アイテムを求めてウォルムがダンジョン潜ってます。急にダンジョンファンタジーっぽくなって、番外編が始まったような4巻目でした。
たった一人で絶望的な戦場を生き抜いてきたウォルムだから、一人でダンジョンに潜れちゃうんですね。
でもおそらく足手まといがいらないって考えからじゃなくて、戦友を失いたくない気持ちが根底にあるんじゃないかって気がしてます。
5巻目はようやくパーティーを組んでダンジョン深層にいどむのかな?
それからウォルムらしいと感じたのとして、転々と定宿を持たずダンジョン内で寝泊まりするストイックな生活をしていたら、ウォルムの寝首をかこうとした暗殺者が足取りを追えないく頭抱えるシーンです。
そこまでウォルムは計算して行動してないんだろうなあ……だからこそ我が道を行くウォルムらしいと感じたシーンです。
ダンジョンファンタジーも間違いなく面白いのですが。ハイセルク「戦記」とありますし、で群像劇な戦記展開に戻るのを楽しみにしてます。
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