TS衛生兵さんの戦場日記【ラノベ感想】

2024年6月24日

TS衛生兵さんの戦場日記
著:まさきたま
イラスト:クレタ
出版:KADOKAWAの新文芸

  TS戦場日記

アマゾンのあらすじより

ファンタジーの世界でも戦争は泥臭く醜いものでした

トウリ・ノエル二等衛生兵。彼女は回復魔法への適性を見出され、生まれ育った孤児院への資金援助のため軍に志願した。しかし魔法の訓練も受けないまま、トウリは最も過酷な戦闘が繰り広げられている「西部戦線」の突撃部隊へと配属されてしまう。彼女に与えられた任務は戦線のエースであるガーバックの専属衛生兵となり、絶対に彼を死なせないようにすること。けれど最強の兵士と名高いガーバックは部下を見殺しにしてでも戦果を上げる最低の指揮官でもあった! 理不尽な命令と暴力の前にトウリは日々疲弊していく。それでも彼女はただ生き残るために奮闘するのだが――。

感想

血と鉄と硝煙にまみれたガチなミリタリーラノベで面白かったです。『幼女戦記』のカルロ・ゼンさんが、推薦するのも納得なこころの乾き具合でした。ということなので血みどろです。ばったばたと人が死にます。一次大戦ばりに救いがありませんでした。

面白いのですが人は選ぶと思います。ダークファンタジー系がいければ、たぶん大丈夫だとは思います。『幼女戦記』とか『GATE』が好きな方なら是非ともどうぞというところです。

 

 

回復魔法の素質があったばっかりに衛生兵に志願して、まさかの最前線配備をされた少女のお話です。いちおうTS転生ですが、銃弾飛び交う戦場で前世知識なんて生かしようがありませんし、TS要素もありません。

大事なことなので、TS要素は1巻目ではほぼありません。

それよりも生き残るのに必死な描写だらけです。女性へ転生しての葛藤なんてできる状況じゃありません。

 

 

さて本作は古戦場で拾った日記を読み進めていく形式となっています。だからこそトウリ視点で臨場感ある戦場風景ががつづられ、戦場で暮らすうちに感情がすり減っていく戦いの苦しさが真に迫ってくるんです。

そして第三者が日記を読んでいる体なので、はたしてトウリが戦争を生き残れたのかどうか分からないんですよね。
日記を手放しているぐらいなのだから……と従軍日記を読んでいたときような気持ちになりました。

 

きっと作者のまさきたまさんは、ミリタリーの増資が深いのでしょうね。塹壕戦の救いのなさ、兵士の無情さなど解像度高いです。私はミリタリー好きで当事者が書いた戦記ものや回顧録を読んでまして、そこで見る描写や展開を思い出すような内容が多いです。

 

主人公のトウリは、読者に一番近い存在なんでしょうね。不合理な戦場をたっぷり見せてくれました。殴られる蹴られるは当たり前、安全な後方の病院勤務でも休まずに徹夜があたりまえなブラック環境。
なんで少女がこんな目にって、思わず感じてしまいます。

 

トウリの対極にいて読者と最も遠い存在といえば、ガーバックですよね。

いくら魔法がある世界だからって、剣で銃弾をたたき落とす彼は人外すぎます。しかもドン引きするくらいの戦闘狂ですし、部下を平気で使い捨てにしますし。
誰もが彼の部下になんてなりたくないって思うでしょうね。好感度最低なキャラです。

普通、戦場でこんなに理不尽に殴る蹴るしていたら、後ろ弾が飛んでくるんでしょうけど、ガーバックは人外すぎて倒せないん。それも無理。もう彼のもとに配属されたら地獄確定です。

 

それでも私は、軍人としてガーバックをみると筋が通っていて、魅力的なキャラだと思ってます。あの隊内暴力は行き過ぎているとしか言い様がありませんが、部下を無駄死にさせないよう考えてはいるんです。
部下を死地へ追いやるのも、上官としては避けられないことでもあります。

全ては勝利のため。ガーバックって度が過ぎた合理主義者なんだと思います。だから部下を盾にするのも自分が生存した方が、より多くの敵を倒せるからって考えていそうです。
そしてガーバックが犠牲になることで戦争に勝てるなら、平気で自分の身も捧げそうな気がしてます。

激戦となる2巻目で、どんな行動をとるのか気になりますね。

 

2巻目の感想

戦争ものなので読者の期待に応えてくれます。敵の大規模構成から勝ち目のない防衛線。綻んでいく戦線、そして壊走へ……。

しっかりと読ませてくれました。しかもリアル志向な容赦のなさで血も涙もない展開でした。阿鼻叫喚な野戦病院での命の選別とかさぁ、手遅れだから見捨てた患者の恋人を会わせるとかさぁ、2巻目も酷くて最低で面白かったです。
戦場に救いなんてないよ……。

 

これがまた2番目の最初は戦場シーンじゃなくて、野戦病院を開設する後方準備になってましてね、本作では貴重すぎる日常シーンなんです。
ただ撤退できた衛生兵はトウリだけだったことから、野戦病院を指揮できる適任者がいなくて15歳のトウリが仕切ることなったて背景は全く優しくなかったりしますけど。

そして病院には踏みとどまって協力してくれる民間医療者がいて、その道何十年のプロのお医者さんたちです。彼らからみたらトウリなんてただの可愛らしい少女、子供です。そんな扱いだからやっとトウリが子供らしく護られて愛を注がれるシーンがくるんです。1巻目の地獄を読んだ後だとついに安らぎが来た喜びですよ。

 

そうやって私の心を救ったあとに、悲惨な戦闘で気持ちに突き落としに来ましたよ。こうでなきゃね。

 

2巻目で特に印象的だったのは、トウリの前世設定が生きるシーンがたくさんあったところです。主人公は前世だとFPSがものすごく上手い、けど実際の戦場じゃほとんど役に立たないって描写がこれまででした。

それが単独行動できるようになり、状況判断やFPS仕込みの駆け引きで敵をやり過ごしていくんです。急に雰囲気が変わったなぁと思ったらあとがきにて、予定を早めて追加した要素とのころでした。web版は「TS衛生兵の成り上がり」となっていて、この成り上がり要素のシーンだったんですね。

となるとこれまでの巻き込まれていく展開から違う楽しさも読めるのですか。是非とも3巻目も出してほしいです。

 

3巻目の感想

重いよ。またも重いよ。
あとがきで全編通して「平和」な巻とあるのは当社比です。普通の作品感覚ならとっても重いです。

またまた名前ありキャラが退場します。おそらく3巻目までついてきた読者なら大丈夫だと思いますが、心にくる展開がやってきます。
それ以外にもユーゴ内戦を彷彿とさせる暴力描写と手加減ないわー。

トウリが心を病むのもあたりまえで、古参兵扱いされていたってほんのちょっと配属が早いだけなんですよね。平時なら同じようなヒヨコあつかいで、誰かの命を預かる立場じゃないんです。それでもやるしかないこの辛さよ。

そして立場を持って初めてガーバック隊長のシゴキは、ちゃんと意味があったと再確認しちゃいますよね。
彼は人格は破綻気味でも兵士としては、優秀だったのがこうみると分かります。

 

この他、トウリの日記を追いかけるウェーバー視点もなにやらサスペンスめいてきましたね。
現代だから安全だと思い込んでいたら陰謀の予感。首相の下ネタを追いかけていたらとんでもないのがでてきちゃいました。

 

 

それなりに読み手は選ぶと思います。
とりあえずミリタリー好きなら安心して凸ってください。面白さは保証します。

 

西部戦線異状なし(吹替版)
リュー・エアーズ
2020-09-18



 

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