汝、暗君を愛せよ 【ラノベ感想】

汝、暗君を愛せよ
著:本条謙太郎
イラスト:toi8
出版:DREノベルス

  foolishruler

アマゾンのあらすじより

ぼくは王として生きる。この豪華な地獄に。
赤字財政、列強の干渉、迫る革命。転生先は破綻寸前国家の玉座だった。

<あらすじ>
お飾り社長としての人生に嫌気がさして自ら命を絶った「ぼく」は、異世界の若き王の中へと転生する。
しかし彼の王国は巨額の赤字財政と列強の干渉に悩まされ、国内には革命の気配すら漂い始めていた。
政治的影響力を無視できない妃候補の令嬢たちと、自分よりも明らかに有能な重臣たちに取り巻かれ、
無力な異世界人たる彼にできることはあまりに少ない。
だが、何とか“上手くやらなければ”生き残れない。
「ぼくの名は、暗愚な君主の1人として残るだろう。永遠に」
それでもなお、彼は玉座に在り続ける。かつて“投げ捨てた”役割を今度こそ全うするため

感想

内政オブ内政。王様に転生したからって現代知識無双なんてさせないよ? とばかりに、権力者の不自由さを描いているのが面白かったです。
王の権力で何でもできる。けれど実質は何にもできない中で、生き抜いていこうとあがき続けた結果、意図せず名君と評されるスレちがい。いやあ楽しかった。

 

転生前の主人公は、中小企業の二代目社長でした。社畜やニートじゃないんですよ。
人をつかい決定して責任をとる仕事をしていたんです。しかし先代や生え抜き社員と自らを比較して劣等感をおぼえ、逃げてしまったことにより異世界へやってきています。

この500人規模の会社の社長として、トップの重圧を経験していた背景が、本作を非常に魅力的な作品にしているポイントじゃないかと思います。
トップの経験があるからこそ王様であっても、周囲から支持を得て動いてもらわないと何もできない。それを理解した上での行動が悩ましくて面白いです。

表紙の主人公はうかない顔をしていますよね? それもそのはずです。
これでもかというほど人間関係と政治に悩まされているんです。そして選択を誤った場合、王は責任ある立場として処刑される道が待っています。

 

ここまでリアルに権力者を描いたラノベは初めてよみました。唯一無二ですね。

 

転生先は発言権こそないものの資金力に優れた市民が存在し、銃砲が普及した世界。しかし税金は徴税人まかせで、全ての権力は王に集中する世界です。
どうも絶対王制の封建主義から国民国家へ移っていき、近代へさしかかる頃を描いているんじゃないかと思います。史実では市民革命によって時代が移り変わったことを考えると……危険な綱渡りな展開を想像してしまいますね。

 

そんな上手く立ち回らなければ、あっというまに死んでしまうことは主人公が一番よく分かっています。
 
それを前提として自分は無力な暗君にすぎないから、実績がある実力者を重用します。自分を支えてくれる重臣や近習に見放されないよう、配慮をして彼らの意をくもうと奮闘していきます。
 
現代知識チートが入る余地なんてありません。現代的な人権思想とか議会制民主主義なんて、口にしただけで命の危機です。
現代知識のなかでギリギリ、この世界の権力者達が受け入れてくそうな政策を選んで舵取りしていく展開です。
 
ちなみにその舵取りは、王自ら指示することはほとんどありません。優秀な部下に考えさせて、その案より王の名をもって命じるやり方です。
王として判断と決定を下し、その決定に責任をもつと徹底的に権力者のあるべき姿を描いてくれています。
 
 
それだから重臣や近習からしてみたら名君にしかみえないんです。分からないから専門家に任せて、出てきた案のうち革新的なものを選ぶんですからね。
また彼らは転生した主人公が目覚める前のリアル暗君をしっています。だから余計に主人公のスゴさが際立って見えている背景があります。
 
 
 
あくまで生存を目的に選択していった結果が、名君として信頼と尊敬を集めるスレ違いっぷりが爽快でした。

 
作中で主人公が自分は暗君だというように、王の器ではなさそうです。私がみていても国民や部下を犠牲とする決断は無理そうです。
仮にやってしまった場合、一生後悔しそうな性格じゃないかと思います。
 
そんな王らしくない甘さからくる判断が、周囲から開明的な名君だと賞賛へと繋がっていくんですよね。その対価として王の権利を手放していっているんですから、従来の王と比較したらそりゃあ開明的でしょう。王の身を守る権力を自ら捨て去っていることでもあり、なんとも皮肉な結果です。
 
 
 
それから政治ガチガチでありながら、ヒロインズも魅力的です。お嬢様だったり軍人令嬢だったりと個性的です。
また側妃として迎えられるので、ハーレム展開も余裕です。そのかわりに令嬢にはもれなく実家の権力基盤もくっついてくるため、誰に手を出すかは政治案件です。4人がいる場があったとしたら、最初に誰に声をかけるかで周囲がピリつく政治案件です。ああ面倒くさい、だがそれがいい。

私はパパと仲良しなゾフィー嬢です。がんばってほしい。そして急にパパとは恥ずかしくて秘密ってされると、パパは大変に傷つきます。止めて差し上げて。
 
 
 
内政・政治展開が好きな方は買ってください。きっと満足する作品です。
 
 

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