折れた剣の幸福論【ラノベ感想】
折れた剣の幸福論 ~赤毛の錬金術士と弱気な元剣聖~
著:扇 友太
イラスト:四季童子
出版:MF文庫J

アマゾンのあらすじより
「自分は、『伝説』でも、『最強』でもなかったのだ」 蘇った剣聖は剣をすでに棄てていた。
『正しい歴史』が改変され、鬼が出現するようになった幕末の京都。
英国出身の天才錬金術士モルガナは一人の剣士を蘇らせた。その名は近藤三助、天然理心流剣術二代目宗主で、理心流を大流派へと押し上げた大剣聖だ(後の新撰組局長、近藤勇は理心流四代目宗主)。
だが蘇った剣聖・三助は剣をすでに棄てていた。
とはいえ歴史干渉のため、内から壊れようとする新選組、その破滅回避を狙うモルガナは、新撰組の精鋭が現局長・芹沢鴨をまさに暗殺せんとする修羅場に、剣を棄てた三助を放り出し――。
心の一滴まで燃やし尽くされる、剣戟と錬金術が織りなす、心熱小説、開始!
感想
新撰組の近藤勇や土方歳三といった有名人と邂逅する幕末作品でした。
錬金術や鬼という怪異が存在する世界観なんですけど、物理最強の剣劇に中心がおかれていて、幕末のifをたのしめて面白かったです。同じ作者さんの過去作『人魔調停局 捜査Fileシリーズ』も、駆け引きたっぷりのバトル描写 & 主人公が毎回ボロボロとなる展開は、今回も同様で楽しかったです。
なんと本作品の主人公はおっさんで近藤三助、錬金術師に復活させられた剣聖です。そこで錬金術師のモルガナ(表紙イラスト中央の女性)に頭が上がらないというキャラです。
最近のラノベ主人公では珍しいおっさん主人公です。まんま今はなきNovel ZEROレーベルから出せそうな主人公像でした。
しかも近藤三助は油断から落命したので、自分に剣を教える資格はない、剣の道など説けないと後ろ向き思考なんです。それでいて剣を手にすると、情景反射で剣聖としての刀裁きをみせたりもします。
なんとも二面性があって面倒くさい主人公ですよね。
ふだんが冴えないだけに、剣を手にした際にみせる剣聖の強さのギャップ感が印象的でした。
そしてなんといっても本作は地味さが私に刺さりました。
そう一見すると地味なお話なんです。でもそれは剣劇をみせるには必要なんだと思います。
鬼がいるからって魔法や必殺技がある世界ではありません。そこで鬼を倒すには剣、極めた剣術が生きる世界が必要なんです。
作中の剣劇はかなりリアルよりで、日本刀が刃こぼれしますし、普通に折れます。一刀両断しようとしても骨で刃が止まったりします。
だから折れないように受け流したり、固い骨は避けて咽や太ももといった急所を狙う立ち回りになります。そこにくわえて打撃・組み討ちの体術をおりまぜたバトルの組み立てです。
剣を手にした近距離戦を描くのに特化した世界観となっていて、戦闘シーンは文句なしに熱かったです。
戦場での駆け引きも光るところで、居合い術で1対多を倒すシーンがあります。この時の説明が「居合いで日常を切る」なんです。
その意味は居合い術で1人目を倒し、相手が立ち直る前に連撃をかけて倒すです。
私はすごく説明をみて、これはありそうだと感じましたね。不意を突いて相手の隙を作るってことですもんね。
ギリギリ人類でもやれそうな気がします。
この主人公にしろ新撰組のメンバーにしろ、超絶な達人なのは間違いありません。でも人間は止めてなさそうな踏みとどまりです。
あくまで人間の枠内で鬼を倒す。そんな世界を感じさせてくれるリアリティラインでした。
感想として懐かしいタイプの面白さだった気がします。時代が幕末で主要人物はおっさんばっかり、ド派手なバトルはあえてないんですよね。私が学生時代に読んでた頃にあった作品たちを思い起こさせてくれました。
だからこそ今だと個性的であり、今の若い読者の方がどう感じたかも気にもなりました。
ちなみに主人公、近藤三助は実在したのですね。wikiをよむと天然理心流の2代目で後継者へ指南免許を与える前に、早世したところまで史実と同じでした。もちろん4代目が近藤勇なところまで同じです。
これだと幕末に詳しい方であれば、色んな幕末に気づけていっそう楽しめるかもしれません。
いぶし銀な面白さの作品だと思います。
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