少女の望まぬ英雄譚【ラノベ感想】
少女の望まぬ英雄譚
著:賽目和七
イラスト:ハナモト
出版:TOブックス
アマゾンのあらすじより
アルベラン王国将軍、クリシェ=アルベリネア=クリシュタンド。剣と英雄の時代を魔術的革命の数々で終わらせた軍事・魔術史上最高の天才である。冷酷無比な殺戮者として恐れられた彼女の実態は、「えへへ、今日のごはんはなんですか?」ちょっぴり食い気が盛んな甘えんぼうであった。少々天然(?)で変わり者な少女の願いは大切な人達との平穏な日々、ただそれだけ。しかしそんな願いをあざ笑うように、残酷な運命は12歳の村娘の手に剣を握らせ、死と暴力が支配する戦場へと引きずり込んでいく。規格外で常識知らずな最強ヒロイン登場!愛する者には天使の笑みを、仇なす者には一閃を。王国最強の軍神が幸せへの道しるべを辿っていく、ガールズ・メメントモリー。
感想
表紙の銀髪少女クリシェは可愛いですよね?
しかも帯の「すっごくおいしいですっ♡」って可愛すぎませんかね?
この表紙の雰囲気からまさかの戦記ものでした。
あらすじにも“王国最強の軍神”って書かれています。まあ戦記展開は2巻目から本領発揮っぽいですが、こんな可愛い少女が戦場にでるギャップにビックリしました。
なんとクリシェは天才だったんです。剣をならったら元軍人を上回る腕前になるし、料理でもサバイバルでも何をやらせてもあっというまにマスターしてプロ並の腕前になっちゃうんですよ。色んな意味で規格外なんです。
天才だったがために軍略の才も示して、戦争に巻き込まれていくというお話です。
国を護るためとはいえ、こんな少女が戦場に立たないとならなきゃならないのですよ。
最強となれる才能があったばっかりに……
というのはクリシェの身近にいる大人たちが、クリシェに対して抱いている感覚なんだろうと思います。
実はクリシェ当人はそんなことを全く苦にしていないんです。
それもそのはずで彼女には心がないんです!
文字どおりないんですよ。
本作はクリシェが何度も母に色目をつかう男を、自らの手で殺めるシーンからスタートします。
この時クリシェは憎いとかの感情があるわけじゃなく、邪魔だなあ障害物は排除しておくかぐらいの気持ちだったりします。クビの骨を折った直後に「夕飯のガボチャを買いにいかなきゃ」って日常を過ごすおかしさを冒頭にブチかましてくれるんです。。
完全なサイコさんなんでしょうね。
嬉しいとか悲しいの感情が分かりませんし、殺しちゃいけないの意味を本能で理解できないんです。
ただし殺したことが分かると周囲の人が困っているようにみえるし、場合によっては捕まってしまうから社会的にNGだという学習はできる子です。そのため完全犯罪でバレなければOKと考えるとんでもない化け物がクリシュなんです。
どのぐらいヤバい化け物かというとクリシェの手で死に追いやった子の母とごく自然に接して、家族みたいな深いつきあいができてしまうんです。良心をいっさい痛めることなく。
私はこの描写でクリシェのヤバさと悲しさを強く知りました。
優秀すぎるから隠し通せてしまうんですよ。
そこに加えてある種の勘違い要素もあります。
心がないクリシュにしてみれば通常の悲劇は、何が悲しいのか理解できません。それよりも楽しみにしていた夕食を台無しにされる方が嫌だと感じるぐらいです。
ですが周囲の大人はそんなこと知りません。悲劇に打ちのめされた少女にしかみえないんです。「○○食べたかったな」とクリシェがいおうものなら、みんなで食べたかったよね……可哀想なクリシェと感情のスレ違いが起こるんです。
主人公の特異さだけでなく周囲との感覚の差による勘違い要素もとても面白かったです。
クリシェに嬉しいとか悲しい、それに人を愛する気持ちが芽生えてくれるのか……とても続きが気になります。
戦記としての展開は2巻目から本格始動みたいです。
とてもおもしろいです。ファンタジー好きな方は是非!
2巻目の感想
無慈悲に敵の命を刈り取る英雄としてのクリシェと、美味しいものを食べてベリーやセレネと幸せに暮らしたいだけな少女としてのクリシェ。
まるで別人のような二面性をこれでもかって魅せてくれました。ギャップの大きさがクリシュの異常性を際立たせます。そしてとんでもないキャラの魅力になってるんですよ。面白かったです。
2巻目の前半は戦記物パートでクリシェ無双です。味方がドン引きするくらいだから敵方の兵士は、心を折られるレベルの恐怖だったでしょうね。
だって初手からエグいの連発ですもの。効率よく士気をくじくために計算した罠をはって、指揮官を狙い撃ちにして狩っていくんですよ。
しかもクリシュ自身は士気をくじく感情の機微が分からないから兵士に聞いて、学習して最高の効率を狙う罠なんです。まさに人の心ないんかと思う非情さでした。
戦いでクリシェが残した結果だけを書きあげたら英雄そのものです。それなのに当人は手紙を届けたお使いのついでで、たいしたことだ思っていないんです。むしろ早く帰ってベリーとご飯食べることの方が気がかかりなくらいで。
あいかわらずの異常さをみせつけてくれるクリシェでした。
そんな人の心がわからないクリシェがベリーとセレネから愛情を一身にうけて、彼女たちを大切な存在として愛している姿をみると感情をもててよかった……ととても嬉しいですよ。英雄なんかじゃなくて一少女として幸せになって欲しいです。
ベリーさんもベリーさんで没落貴族の娘として悲惨な過去をもっていて、クリシェといられることで癒やされていたんでしょうね。2人が並ぶと美女と美少女の姉妹! それで過度な姉妹のスキンシップとくれば……百合ですね!
そしてもうひとつ。私は本作が百合だって言われる理由はピンときてなかったんです。でも2巻目をみて確信しました。
これは百合です。あらーすばらしい。
しかもなんですか。無知シチュの百合チューなんて、とんでもないものブチこんできましたね。ハナモトさんのイラストも神がかっていて、「クリシェからベリーへのキス」と「ベリーからクリシェへのキス」の両方を描いてくれています。各イラストにある表情の違いだけで妄想がとても膨らみますね。
まちがいなく本作は百合です。
キスは好きな人へするんだよ、からのベリー大好きのチューとかさあ!
たしかに人の感情がわからないクリシェだから家族愛と異性愛の違いなんて分からないでしょうし、こんな風にやっちゃうんでしょうね。ハグとかお風呂で洗いっことかためらいなくできちゃうんでしょうね。
それに加えてベリーさんもまんざらでもなくて、抗えずに流されていく感じが最高です。しかもベリーさんの悲惨な過去とあいまって、クリシェとずっといる宣言もでてます。2人の絆はガッチリで間違いありません。
形としてはアレとしてもクリシェも「人を好き」って感じたのは成長したなあと思います。好きがいきすぎてベリーへの執着としかいいようがない依存っぷりは、百合百合しくて尊いです。さすがにクリシェが人への距離感は学ぶのは……まだまだ無理なようですね。
こうなってくると心配になってくるのは、クリシェが好きな人たちに害を受けたらどうなるかです。倫理なんてクソ食らえバレなきゃ問題派のクリシェだったら効率重視で、じゃあ後腐れなく殺っちゃえって思うはずなんですよ。
そうしたら飛んで火にいるな悪徳商人が登場して……彼の運命やいかに?
最後に2巻目といえば新キャラの王女様です。ある意味で最大のクリシェの理解者が登場します。
そしてクリシェにとっても他者の感情や行動原理を理解できる相手なんです。いちだんとお話が面白くなるキャラがやってまいりました。
相手は王女様だから絶対的な権力者です。対してクリシェは誰も止められない個としての最強戦力です。
絶対に混ぜるな危険の二人。こんな2人が交わっていくんだから3巻目の期待が一段と高まりました。すごくよかったです。
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