マルブールの赤目烏と滅びの宝飾師【ラノベ感想】

2025年4月29日

マルブールの赤目烏と滅びの宝飾師 〜天才宝飾師と平民出身強欲商人の成り上がり傾国譚〜
著:宮之森 大悟/
イラスト:星らすく
出版:オーバーラップノベルス

  marbour

アマゾンのあらすじより

その男の審美眼が世界に変革をもたらす!!

皇都で宝石商を営む青年アルベリクには、皇室御用達になるまで事業を成長させたいという夢があった。
その実現のためなら手段を選ばず弱者を蹴落とし、ゴミ山さえ漁る……
人々はその様を蔑み彼を《マルブールの赤目烏(あかめがらす)》と呼んだ。
ある日、店お抱えの老宝飾技師ガストン逝去の報を受け故郷を訪れたアルベリクは、ナタリー・ルルーという名の宝飾技師と出会う。
ガストン最後の弟子を名乗る彼女は儚げで男を惹きつける美貌とは裏腹に、並ならぬ技倆を持っていた。
そこに事業への勝機を感じたアルベリクは専属契約を結ぶこととなるが、彼女を巡る不穏な縁に段々と巻き込まれ……。
しかして、ナタリーが作りアルベリクが世に出す宝飾は次第に脚光を浴びていく。
そして遂に、皇后との謁見もかなうこととなり……!?
これは、稀代の天才宝飾師を見出した平民生まれの宝石商が成り上がる物語であり――
世界一の宝飾ブランド《リアーヌ》始まりの物語である。

感想

とても面白かったです。

立身出世もの、なかでも宝石商としての成り上がりがテーマとなっていて、偽造・賄賂・独占なんでもありでした。TVの日曜劇場枠にある一企業がのし上がって覇権を握る展開に、ワクワクさを感じる方にはどうか読んでみて欲しいです。表紙の雰囲気から令嬢ものでしょ?ってスルーしちゃうのはもったいない作品ですよ。

 

私も読むまでは青いドレスの天才宝飾技師が、超絶技巧で世界を変えていくお話かと思っていました。
しかし違いました。

あくまでも主人公は右の男性、宝石商のアルベリクが主役のお話でした。ナタリーはまぎれもなくキーマンですが、アルベリクの成り上がりと彼の変化を追いかけていくお話です。
事実、冒頭で本作は過去談となっていてアルベリクの成功は約束されています。その上でアルベリクの成功を影で支えたナタリーを描く、小説の体をとっているんです。

物語の構成がしっかりしていて引き込まれる作品ですね。また文語表現が多用されライトじゃない小説っぽく読める文章選びもされています。
それなのでアルベリクの発言や行動は、上流階級を意識しているように思われ格調を感じられたのも、作品世界への没入感を高めるところでもありました。

 

以上から主人公はアルベリクです。

キレもので決断力がある優秀な男性です。ただし誰からも愛されるかというと、決してそういう人物じゃありません。
あるく上昇志向の塊のような存在で、皇室御用達の商人へと成り上がるまで止まりません。
しかも底辺から駆け上がるんだから悪事を働いて何が悪い? と手段を選ばないんです。冷酷に部下を切り捨てますし、商売相手を叩き潰します。

かなり癖が強くて好みが分かれる主人公じゃないかと思います。己の夢を叶えるためならば悪もいとわないダークヒーロータイプの主人公です。

 

そんな主人公がナタリーの影響を受けて良い方向へと変化していくお話じゃないかと、私は印象を受けています。

アルベリクは宝飾品は身を飾る道具で、利益を生む大事な商売道具だと思っているタイプです。でも物語を読んでいるとしっかりと宝飾品を目利きできる知識があり、過去には宝飾品にもっと熱い思いを抱いていたこともありました。
だからナタリーと会話をして葛藤もするし、悩む姿を見せてくれるんですよ。もう少しばかり他人と自分を愛する気持ちをアルベリクには取り戻して欲しいかぎりです。

そしてキーマンとなるナタリーです。

彼女は人見知りな技師だけど、信念がつよくて抜群のセンスと宝飾への愛をもっている人物です。これだけで十分に技術無双できるキャラでありますが、彼女の本質は情の深さにあるような気がします。

特注の品を作るのであれば身につける人の人となりをしり、その人に寄り添う唯一無二の品を作ろうとする熱意はグッときます。そうやって生み出された宝飾品を手にした依頼人の反応なんて感動ものです。私はしっかりと心打たれて泣きました。

このナタリーは真の職人で彼女もまた信念が強いんですよ。あのアルベリクに一歩も引きません。
どうやらナタリー自身にも辛い過去の数々があるようですが、1巻目だと詳細はあまり明らかになりません。

 

ナタリーは何ものなのかが気になりつつ、私は一番にアルベリクの変化が楽しみです。あの指輪はどうなっていくのでしょうね?
じっくりと読んでいきたい作品です。男性の方にも目をとめて読んでみて欲しい1作です。

 

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