12ハロンのチクショー道【ラノベ感想】

2023年2月21日

12ハロンのチクショー道
著:野井ぷら
イラスト:卵の黄身
出版:オーバーラップノベルス

12ハロンのチクショー道

 

アマゾンのあらすじより

日本ダービーを制覇せよ!

12ハロン――競馬で数々の歴史を作り、人々を魅了してきた2,400mの道のり。
ある男は転生した――地方零細牧場の競走馬に。
その名はサタンマルッコ。
栗毛で額に位置する真ん丸の白い星がトレードマークのサラブレッド。
地方競馬を連戦連勝し、調教師小箕灘はオーナーの中川を説得して中央競馬へ参戦させることに。
「マルッコはダービーを獲る馬です」
さらに賞金を積み重ねたマルッコは日本ダービーへの切符を手に入れる。
騎乗するは数多のGIに優勝歴を残すベテランジョッキー、縦川友則。
だが彼は、日本ダービーで一度も優勝したことのないジンクスを抱えた騎手だった――。
「それでは日本ダービー、本馬場入場です」
かくしてファンファーレが鳴り響き、世代頂点の馬を決める優駿の門が開く。
金と見栄と名誉と意地が渦巻く熱狂の世界へようこそ。
これは競走馬にされてしまった男と、そんなでたらめな馬に魅了された人々の熱き競馬物語。

感想

シノミヤユウさんが、ゲキ推ししていてどっかで読もうと思っていた作品でした。
面白過ぎて一晩で読んじゃいました。競馬愛ですよ。競馬にかける男たちの思いが熱かったです。競馬好きならモチロン、ウマ娘で競馬に触れ始めた方にもオススメします。とても面白かったです。

 

あらすじに”ある男は転生した――地方零細牧場の競走馬に。”とあったり、冒頭に海外馬に転生したエピソードがあります。でもお話の大半では、転生者視点が出てくることはありません。やたら人懐っこくて賢い描写とか新聞を読もうとするとか、匂わせ描写があるだけです。

作中の主人公は、騎手であり、調教主であり、馬主であり競馬ファン。いわゆる馬を取り巻く人々です。人間サイドの人間模様なんですよ。
そんな人々の思いを託されサンタマルッコが、レースに挑む物語です。

人間ドラマが熱くて競馬の持つドラマチックな感動を見事に描いてくれている力作です。競馬好きだからこそ書ける作品でしょうね。

 

なにせ零細牧場の主としては、生まれた馬が走るかに文字通り人生がかかってます。騎手や調教主なら言わずもがなです。
それ故にサンタマルッコに託される思いは、とにかく重いです。

その中で印象強く残っているのが、地方競馬に所属してサンタマルッコに乗っていた高橋騎手です。彼はサンタマルッコに乗って地方競馬で勝ち、中央デビューでも勝利をおさめる栄誉を手にしています。
でもそれは、全部サンタマルッコの実力のおかげだったんです。賢い馬が騎手をガン無視してレースを組み立てちゃっているんですよ。

これに気づいている高橋騎手の苦悩は、心をエグってくる辛さでした。なにせ騎手であるのにすごい馬に載せている重りと変わんないんですもんねぇ。こういう人間の感情に圧倒される作品です。

 

気の毒な彼に次いだ鞍上は、縦川友則騎手です。こちらは中央競馬のGI勝利経験もあるベテランですね。
サンタマルッコの実力を見抜いてこの馬でならば、悲願の日本ダービーを制覇できると夢を託す熱すぎるストーリーへと繋がっていきます。

走ることで人馬一体となっていき、そして念願のレースに挑む展開ですよ。こんなの面白いにきまっています。

 

 

さて本作は、お話としての面白さに加えて競馬をちょっと知っていると一層面白くなるネタも満載だったりします。

まず縦川友則騎手の元ネタは、どうみたって横山典弘騎手でしょうね。ダービー制覇を目指して15回目も日本ダービーに挑んだ方です。また当時の掲示板ネタで「ノリが吹いたら切れ」というのまで作中で再現されているほどです。
※横山典弘騎手がレース前に取材でイケそうだと語ったらその馬はこないというジンクス

 

地方競馬出身の馬が、中央に乗り込んでGIを制覇するのもロマンですよねぇ。もし実在したらオグリみたいに間違いなく人気馬になっていたでしょうね。(血統は圧倒的にサンタマルッコ優れてますけど)
また日本ダービーを作品の後半とせずに有馬記念を持ってきてくれたのも嬉しい演出でした。有馬といえば1年を締めくくるお祭りですからね。まさに夢を託す本作らしいレースで締めくくってくれました。

 

あと凱旋門賞のゴールドシップを彷彿とさせるサンタマルッコのサービス精神とか語りたいところは様々です。きりがないのでレースの臨場感について最後に触れます。

 

レースシーンでは、パドックから発走前での馬と騎手の紹介があって、GIレース前のテンションアゲアゲにする名実況があります。レース中の実況は、実際の競馬そのままな臨場感です。ダービーでの実況シーンなど特に見事で第4コーナーからゴール前までで思わず「うぉぉぉ」となる熱さと感動でした。

晴天に恵まれました東京競馬場。芝、ダートともに良の発表。
まさに晴れの日を迎えるのに絶好の日和でありましょう。
世代一強と言わしめた皐月賞馬の二冠への挑戦。
これを阻む者が現れるのか、それとも並みいる強敵を倒して二冠を手にするのか。

第NN回日本ダービー。それでは出走各馬の本馬場入場です。
今年も、世代の頂点を決めるレースがやってまいりました。
20NN年生まれの8032頭の頂点を争う、世代の優駿18頭をご紹介いたします。

こんな素晴らしいのを魅せてくれるんですよ。

 

競馬実況の杉本清さんみたいな浪花節の人情味・人生ドラマを感じさせててくれる名調子の紹介&実況です。やっぱりこんなの面白いにきまっています。

 

 

競馬を知っている方には是非ともオススメします。そして競馬をやっているラノベ未読の人をラノベ布教するにも最適な1冊です。

 

 

そうそう、本編後の閑話もこちらで読めますよ。

 

 

 

 

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