転生令嬢と数奇な人生を【ラノベ感想】
アマゾンのあらすじより
ファルクラム王国の中流貴族キルステン家の令嬢に転生したカレン。前世日本人女性で30代で死亡したという記憶がある以外、とくにチート能力などもない、いわゆるモブ転生。……生まれ変わったけど、なにをすればいいの? お告げや使命は?それでも温かい家族に囲まれて幸せに暮らしていたが、14歳の頃、なぜか兄姉弟の中で自分だけ母親の記憶から忘れ去られてしまった。その原因が母の浮気の末にできた子供だったからとわかり、浮気相手が平民だったことから、家を出て平民として暮らすことに。そして2年が過ぎた16の春。ここでまた転機が。皇帝の愛妾となった美貌の姉に呼び戻され、カレンは結婚をすすめられる。平民に落とされた妹を貴族籍に戻そうという姉心であったが、いわゆる政略結婚だ。婿候補は2人いた。侯爵家の次男で容姿端麗・将来有望な騎士ライナルトと妻に先立たれた地方領主のコンラート老伯爵。果たして、カレンの選択は……?
感想
ツイッターで見かけて出版社が早川だったので、早川が出すなろう作品ってどんなのだろう?と気になり読みました。主人公の美少女カレンは転生令嬢でした。独身三十路の日本人が気がついたら異世界貴族の令嬢に生まれ変わっていたってストーリーです。
帯で「チートなしの転生」を強調しているので、アンチ転生かな?とも思ったら全く違って骨太ファンタジー路線でした。異世界転生がはやる前にあった懐かしいタイプに近い雰囲気です。スキルとかステータスとかの要素ありません。しいて挙げれば貴族の美女へ生まれ変わったという環境が恵まれ要素でしょうか。かなり恵まれた環境である反面、貴族ならではの波瀾万丈も待っている第2の人生です。
物語開始早々にカレンは平民におとされて、就活がうまくいかない大変な環境に落とされてます。でもそこは手に職をつけて、「異世界を旅して回りたい!」と転生者らしい発想をして悲壮感ゼロです。この発想が後々の波乱を生んで、物語がとても面白くなっています。
例えば、"侯爵家の次男で容姿端麗・将来有望な騎士ライナルト"と"妻に先立たれた地方領主のコンラート老伯爵"を嫁ぎ先候補にあげられたら、老い先短い伯爵がいいとかカレンは考えちゃうんです。誰もがこっちでしょと考えるイケメン騎士じゃなくて、老伯爵を選ぼうとするので周囲は大慌てです。カレン本人は静かに暮らしたいだけでそうしたのに、まさに数奇な人生をおくることになります。
本作を読んで強く感じたのは、非常に丁寧な人物描写や異世界についての文化・歴史の説明がなされています。じっくりじっくり物語の世界はこうなんだよ、カレンの家族や身の回りの人々はこうなんだよって教えてくれます。そうやって作品のことが分かったところで波乱が巻き起こるんです。もうその頃にはすっかり本作に魅力に取り憑かれちゃいますよ。
これを支えているのは圧倒的な文章量です。大判の単本サイズだというのに一般的な文庫ラノベより行間狭めです。約470ページで挿絵は控えめ、文庫ラノベ2本分のボリュームで読み応え抜群でした。定価も1500円とすごいんですけど、2冊分だと考えたらかなり良心的です。
そして各キャラの掘り下げが巧みでイケメン騎士ライナルトとカレンの交流は、今後どうなっていくのか目を離せません。カレンというキャラが昨今の転生キャラらしくないのも新鮮でした。物語を動かすために目上に日本人的な応対をするとか、転生前が社会人だったのに異世界に来たら子供みたいな性格と言葉遣いなるとかがありません。「異世界を旅したい」って夢を除けば、ものすごく大人な対応です。落ち着いた雰囲気の主人公です。年齢層が高めの読者に合いそうな気がします。
あと楽しく読みこんだのがお貴族様の会話シーンです。笑顔でにこやかな会話でしかないシーンだったのに、実は正反対の意味だったのだらけなんです。相手との関係とか風習なんかが分かると、遠回しNoと言っているのが段々読んでいて分かるようになってきます。社交的な応酬の真意を測りながら読むのは楽しかったです。
2巻目の感想
2巻目を読みました。タイトルの"数奇な人生"ってこういうことなのね、って急転直下の連続な巻でした。そして1巻目に比べると一気にハードな展開にもなってます。中々に容赦ないのでハード展開は、苦手って方はご用心ください。
そういった苦労を乗り越えて子供だと思っていたヴェンデルくんが、しっかりと存在感を増しているのは見守りたくなります。脇から主人を支えるウェイトリーさんとかモーリッツさんとか渋いおじさまが、活躍するシーンが多いのも推しポイントです。キャラが素敵です。
1巻目が婚約者候補のコンラート老のターンとすると2巻目は、イケメン婚約者候補のライナルトのターンです。ライナルトってビジネスパートナー以上の思いをカレンに抱いていそうなんですけどね。なんとも主人公のカレン嬢は、やっかいな令嬢です。2人の行く末から目が離せません。
3巻目の感想
圧倒的なボリュームで充実した読書時間となりました。
イベントも盛りだくさんでした。なかでも転生仲間と耳にいたい言葉も交えて、本音をぶつけ合うシーンが印象的でした。たった2人だけの転生者ですからね。お互いに相手を思う。これぞ真の親友という熱いシーンでした。
友人のエルの方が、魔法の天才で異世界に革命を起こしていて、異世界転生ものの主人公らしいってのも主人公との運命の対比が面白いです。
それから3巻で楽しかったは、カレンとモーリッツさんです。眉間にシワ寄せまくりで口を開けば、ツンツン台詞だらけなのになんだかんだでカレンに手を貸すモーリッツさん素敵です。彼って作中でトップクラスの苦労人かも?
タイトルの「数奇な人生」のとおり今回もジェットコースター展開でした。ライナルトのお父様と顔合わせのシーンなんて胃が痛くなる場面の連続ですよ。
そして…副題となる「栄光の代償」です。後半で分かりましたけど……代償が大きすぎやしませんか。まだまだ波乱が続きそうな予感です。
大作の予感を感じます。描写が濃いので集英社オレンジ文庫の作品をよく読まれる方なら、大満足の内容じゃないかと思います。オススメします。
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