泡沫に神は微睡む【ラノベ感想】

2024年2月22日

泡沫に神は微睡む 追放された少年は火神の剣をとる
著:安田 のら
イラスト:あるてら
出版:カドカワBOOKS

  泡沫に神は微睡む

アマゾンのあらすじより

追放された少年の巨大すぎる霊力と剣が目覚めたら――

精霊の力でこの国を牛耳る貴族、八家のひとつに生まれた晶。だが、晶にはなぜか精霊が宿っていなかった――。

生家を追放された晶は、別の州へと出奔し、化生退治の部隊に所属する。強力な呪符が作れ、瘴気を跳ね返すなど、徐徐に明らかになる特異体質は、呪符使いの組合や有力貴族の女子剣士の度肝を抜いていく。さらに昇格のため渋々受けた儀式で、晶を”本当に加護しているモノ”が覚醒。だが同時に、都を呑み込む巨大な怪異が目覚めようとしていた……!

感想

純和風な追放からの成り上がり作品です。不遇を被った少年が、立ち直り力を得ていく王道ですね。

誰しもが持っている精霊との繋がりを得られない。術も使えない。そんな主人公が、名家から縁を切られて叩き出される追放シーンから始まります。

まずこの冒頭の時点で親や親族は、期待をしていたのにダメだった。可愛さ余ってとも見て取れる失望感たっぷりな描写なんです。
一方の主人公も期待に応えられない無力感と悲しみ。親や親族からぶつけられる理不尽に対しての怒りと悔しさ。心底つらそうな描写なんです。
こういった作中に度々現れる感情へ訴えてくる表現が、とにかく秀逸で引き込まれる作品でした。

 

追放されてからも幼少期の体験ってのは、主人公の心に何度も傷を与えてくるんですよ。このときの魂の叫びともいうような嘆きときたら……。心をかき乱される作品ってこういうのを指すんだなって感じてしまいました。

 

またそれだけの主人公の無力感・孤独感を読者にたっぷり見せておいてからの反動もインパクト大ですよ。だってようやく主人公を愛して大切だと認めてくれる相手が見つかったと思ったら……どうみても人知を超えた力を持ったディープラブ勢なんですもの。愛情描写もまた振り切ってます。
主人公をめぐって内乱も辞さないとか、失ったら闇落ち&荒ぶって大暴れとか愛が重すぎますわ。この先ロクなことにならなそう……とディープラブ勢好きとしてはこれもまた楽しみです。

 

そして忘れられないシーンといえば、主人公の晶と朱華の出会いです。ファンタジーが好きな方には是非是非読んでみて欲しいですねぇ。
神域の神秘さ。人が住む世界との人ならざる者の世界との揺らぐような違い。そんな幻想的な和風ファンタジーを堪能させてくれました。ホント面白かったです。

 

あとは主人公の晶くんです。彼は心底応援したくなるタイプですね。作中のハル婆さんが、晶のことを何かと世話した気持ちが、私もなんか分かってしまいました。
ちなみに朱華は、デッレデレに晶を甘やかしてくれそうな感じですが、度を越えてて彼女の気持ちまでは、察しきれませんでした。彼女はまぁ別格ですね。

 

明治時代前半を想像させるような世界設定。それに文語的な言い回しとか、独特の世界観に最初ビックリする方がいるかもしれません。でもご安心ください。全く気にならないペースですんなり読めますよ。そして慣れてくると本作ならではの世界観を堪能できるんじゃないかと思います。
2023年で強く推していきたい作品です。

 

2巻目の感想

1巻目で朱華さまの後ろ盾を得て、武器である寂園雅燿を手に入れたってのに、まだまだ無双とは縁遠い晶です。技を覚えて新たな刀を手にすると、確実に強くなっているんですけどね。晶ひとりだけが蚊帳の外なんですよ。

なんで実家で迫害されたのか。どうして朱華さまの寵愛を得られたのか。ここらが晶の成長のためにワザと隠されているんです。なので2巻目も晶の苦悩は続いてます。

 

コレ、その時が来て晶が真実を知ってしまったらどうなるんでしょうね? 1巻目が比べものにならないぐらい、彼の感情がグッチャグチャになってしまいそうな気がします。
晶には気の毒ですが、そのシーンは……楽しみになりますね。

あとは真実を隠しながら、晶を教え導くよう命じられた咲と「くろさま」ですね。
咲とのボーイミーツガール的な甘酸っぱい関係もあるのか? 登場シーンが全然ないくろ様の心は大丈夫なのか?どっちもとても気になります。

くろさま……大丈夫ですよね??

 

3巻目の感想

くろさま……だ、大丈夫ですよね??

やっとイラスト付きでくろさまのシーンがやってきました。想像通りの和風黒髪美少女です。
それはよかったんですよ。でもね……くろさまの許嫁である晶はすでに朱華さまと縁を結んでしまっていますからね。寸止めを喰らってしまったくろさまの心中やいかに? きっと荒ぶってしまうんだな……

そこまでくろさま、朱華さまなど神に愛されている晶だというのに愛されていて、特別な自分だということを伏せられているの気の毒です。おかしいぞ?という違和感に晶も気づいているし、短期間でメキメキと強くなっている実感もあるのに周囲のみんなが伏せるから、いまだに晶だけ蚊帳の外です。

こんだけ積み重ねておいて晶が真相に気づいたら、彼はどれだけ心を乱すんでしょうね。残酷な運命に今後が気になります。

 

そんな神様たちの思惑とは別にバトルファンタジーのような「勇気・友情・勝利」展開がたっぷりな3巻目で、爽快感強めだったのはこれまで違った印象です。怪異相手とは違って対人戦だから駆け引きがあり、勝利への執着心がありで熱かったです。戦いを通じてこれまでツンツンだった凉太が晶に任せる一瞬もあって、戦友との絆にグッときました。
晶を支えてくれる味方が増えていってくれるのは嬉しいですね。

 

ラスト部分の引きが巧みで次巻もまた楽しみです。

 

 
 
 

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