招かれざる神女【ラノベ感想】
招かれざる神女
著:雨咲 はな
イラスト:憂
出版:KADOKAWAの新文芸
アマゾンのあらすじより
アリアランテ神国──女神リリアナの加護を受けるこの国には、
特権を得る一部の神民と、貧窮にあえぐ大多数の棄民が住まう。
ここでは百年の一度、女神の力を受け取る四名の神女候補が集められる。
しかし、水晶の導きによって“五人目”の候補が選ばれた。
彼女の名前はククル・デニ、棄民。「俺たちと共に神都へ来て欲しい、ククル」
それはやがて、
アリアランテの根幹を揺るがすこととなる──。「水晶が示したそうだ。『時、来たれり』と」
存在しない“五人目”の神女候補として選ばれたクー。
ついに、四人の神女を決める儀式が執り行われることになるも、
選ばれた神女たちはなぜか次々と神殿から姿を消していく。
しかし普段と変わらない様子の神官たち──
この場所の真実とは一体“何”なのか。アリアランテの核心へと迫る彼女の前に、
もう一つの陰謀が目を覚ます──。
感想
本格派なファンタジー作品でした。読み応えがあって非常に面白かったです。
アリアランテについての確たる世界観がってあって、そして主要登場人物の心情と背景が、複雑にからんでいく展開です。魅力的すぎるキャラクターがいて神のいる世界。まさにハイファンタジーでした。
作品舞台となるアリアランテは、徹底した身分社会です。神民と棄民に区別されていて、神民は特権階級です。美しい都市に住み働く必要すらありません。
その一方棄民はというと日々の稼ぎの大半を税としてもっていかれ、生きていくのもやっとなギリギリの暮らしです。
加えて神民と棄民は、同じ人間じゃないとの意識は、徹底した常識としてすり込まれています。神民なら棄民を害しても罪に問えないくらい圧倒的な差がある世界です。
それだけの身分差がある国で棄民である主人公クーのもとに2人の神民が、神女候補になったとの神託を携えてきます。ここから3人の物語は始まっていくわけです。
まず主要3キャラです。
この3人がみなそろって魅力的なんですよ。
まず身分の異なる3人が、互いを認め合っていく過程には、それぞれに暗いかげをを落とす過去が背景として絡んでいます。この要素は3人を知ってか知らずか縛ってしまっており、克服できるかが目を離せない面白さとなっています。
だれの視点で読んでも面白いお話だと思います。
そして恋愛要素も欠かせないところですよね。
クーがキリクとカイトに対してこれまで感じたことのない感情とか、それを見たキリクとクーにおきる黒い感情とか上巻で楽しかったところですねぇ。
上巻 『アリアランテ神国の栄光』
神女候補として棄民のクーと彼女の護衛騎士となったキリクとカイトが、神都にあがる展開です。そして神都では、4人の神女候補が待っています。彼女たちはいずれも神民でクーとの身分差は明確です。また集まった神民内でも身分差があるときます。
身分差のあるクーは、神女候補から晴れて神女となれるのか?
また神女とは、そもそもいったい何なのか? 神女選定の謎も徐々に解き明かされて行きます。
ラストの独白には、思わずゾクゾクしてしまいました。
下巻 『アリアランテ神国の終焉』
続きではアリアランテの闇ともいう謎にふれ、不幸な現状をひっくり返していく展開です。
おおきな流れが巻き起こります。もちろん作中でその描写は、丁寧にあります。
ですが私はそれ以上にクー、キリク、カイトの3人が、過去を乗り越えて成長していく様とその先の姿に目がいってしまいました。
このキャラの成長とか魅力って、やっぱりラノベとして外せない面白さかなといつも思います。
いくらかの苦さも含めて描かれる成長シーンは素敵でした。
このように面白かったので非常にオススメします。
文章はラノベの中では固めです。電撃大賞の銀賞にきそうな感じで、じっくりと読む文章のタイプじゃないかと感じます。
なにせそうやってゆっくりと読むと面白いんです。例えばこんな表現の箇所です。
自分を偽って相手を騙し続けていた人を諭すシーンです。その段落の最後に"……何を言っているんだ?"と自らの偽りを思い出させる文章をサラっといれてくるんです。
こんな感じで色んな場面で、読者に別視点での見え方を促してくれるんです。この促すぐらいの感じが良かったです。
この時あのキャラはどんな感情を抱いていたのか。視点を変えてみたらどう雰囲気が変わるのか。想像の余地をたくさん与えてくれとてもこの作品を好きになれました。
また下巻ラストで「2面性」についての言及もあります。
「2面性」はアリアランテの世界観のみでなく、キャラにもいえたことなのかもと感じました。考察をしながら2回目を読んでみても楽しいのではないかと思います。
ものすごく上質で丁寧なファンタジーラノベです。文句なしにオススメします。
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