エルフの嫁入り【ラノベ感想】

2025年10月26日

エルフの嫁入り
著:逢坂 為人
イラスト:ユウノ
出版:ガガガブックスf

  エルフの嫁入り

アマゾンのあらすじより

エルフと人間の即席夫婦、幸せ生活始めます!

「――お前の婚約は解消になった」

ハーフエルフのミスラは、草原で暮らすようになった「遊牧エルフ」の一族のなかに身の置きどころがない、つまはじきものの底辺姫。
純血のエルフではないせいでついに婚約解消されてしまったミスラは、街に住む人間の錬金術師アスランと、会ったこともないまま結婚する運びになったが――

「連れてきた家畜、百頭しかいませんが……(遠慮)」
「連れてきた家畜って……百頭もいるの!?(驚愕)」

過酷な自然の中で自給自足の生活を送ってきたミスラと、都市で生きてきたアスランの常識はまったく噛み合わない。
それでも二人は少しずつお互いのことを知り、助け合い、ゆっくりと幸せになっていく。
エルフの花嫁と人間の花婿が織りなす、じれったくもやさしい、異文化交流新婚生活。

感想

一粒で2度美味しい。

いきなり結婚してしまった夫婦の距離を徐々に詰めていく恋模様、それから異国情緒たっぷりな異文化交流のどちらも面白かったです。特に私は遊牧民の生活や文化がすごく丁寧に描かれた演出にのめり込んでしまいました。

だってマンガ『乙嫁語り』みたいな艶やかな民族衣装を着た金髪エルフさんが表紙ですよ?
こんなの即買いするしかありませんわ。カラーイラストがとっても素晴らしいです。刺繍とビーズの書き込み具合をじっくり見てみてください。

 

まずタイトルでもある「エルフの嫁入り」です。

この意味はヒロインのミスラがハーフエルフというのが関係しています。そしてエルフ社会は徹底した血統主義でハーフエルフが完全に仲間はずれ扱いされているんです。だから予定していた婚約を反故にされてしまい、ミスラは人間の国に一人嫁ぐことになっています。

そしてミスラを受け入れた錬金術師の青年がアスランです。実は彼ってエルフのクオーターなんですよ。
だから他の人よりはエルフに理解があるでしょ? それにフィールドワークで出張だらけの錬金術師は、嫁が来ないから悪くないでしょ??
ということで成立した「エルフの嫁入り」です。

 

そんな流れなのでお互いのことなんて一切分かりません。なにしろ式が終わり婚礼衣装のヴェールをあげて、アスランは初めてお嫁さんの顔を知るぐらいですからね。

はじめましてから始まる夫婦生活です。

また男性側のアスランが力強くミスラリードしていくかというと……そういうわけでもありません。アスランも急遽暮らすようになった美人エルフさんにドッキドキで、恋愛経験に乏しい2人の探りあい生活なんですよ。不器用ながらも互いを尊重し、大事に思う気持ちにあふれていて心癒やされました。

加えてミスラはハーフエルフを理由に、故郷で辛い思いをいっぱいしていたのも大きかったですね。こんなの本人にどうしようもないですよ。人一倍働いても仲間として扱ってもらえない、ハーフでなければ姫とよばれるはずの出自なのに従者未満の扱い……
だから初めてアスランとミスラが同じベッドで寝たときに、人のぬくもりを喜ぶミスラをみたときは思わず涙です。彼女は幸せにならなければなりません!

 

ここまでの感想が恋模様のところです。ガガガブックスfで女性向けではありますが、そこまで恋愛要素が強いわけではありません。これ以降に書いていく文化や価値観のスレ違い要素の方が要素としては多いです。そのため男性のラノベユーザーへも推しやすい作品です。

 

 

 

さて文化や価値観は現実にあった騎馬民族などをイメージされています。後書きに参考とした地域が書かれているので、歴史好きは○○かな?と想像しながら読むのも楽しいと思います。なお私はおもいっきり違った想像をしていました。

 

ミスラが生まれたエルフ社会は衣装から想像つくように遊牧騎馬民族です。氏族社会で血族が重視されます。しかも厳しい自然環境を生き抜くために団結することが求められて、族長や家長の命令は絶対です。おそらく男尊女卑でもあるじゃないかと思います。
対してアスランは都市に定住する農耕民族で、アスラン自身は土地を持たないサラリーマンです。豊かな地域で個人の幸せを追求することがゆるされる価値観でもあります。まあ法律上、個人同士の了解だけで結婚してOKだからといって両親に「結婚するわ、じゃあ」な勢いで結婚したアスランは極端な例かもしれませんが、集団よりも個人を尊重する価値観です。

 

このように何もかもが違うので色んな場面で価値観の相違がでてきます。そして価値観の元になる両社会の文化を丁寧な設定があるので、これがとても引き込まれる部分です。控えめにいって超おもしろいです。

いくつか例をあげると、お互いの呼び方でミスラはアスランを「旦那様」と呼びます。男尊女卑な氏族出身だってのが、この一言だけでもイメージできちゃいますよね。
一方アスランからしたらお金でお嫁さんを買ったみたいな呼ばれ方で、「アスラン」と自分の両親がそうだったように名前で呼んでくれとなるわけです。
でもそうなるとミスラにはフランクすぎる呼び方で受け入れられない……

休みに対しても価値観が異なり一日中働いて自給自足が当たり前、休んでなにもしないことは罪悪感を感じるくらいのミスラと、週1で休むのは心身のために必要でお金を使ってでもしっかり休むべきというアスランと対極です。休みを巡っては何回も意見のスレ違いが起きてます。
それ以外にも「雨の日」に対しての感じ方の違いなんかも、文化の違いを意識するシーンでものすごく好きな場面です。

 

これらの文化からくる価値観のスレ違いと、それに折り合いをつけていく様子がたまらなくよかったです。

 

 

加えて作中の文化面からいうと、食に関してが旅番組でも見ているかのように濃いんです。現実にもあるトルコやモンゴルの料理がバンバン登場してます。
遊牧文化らしく多種多様な乳製加工品や羊料理。都市文化らしい香辛料たっぷりでエキゾチックな料理の数々。でてくる料理はガチなのばかりで全く一般的じゃないのだらけですので、料理名を検索しこんな料理なんだとイメージしながら読んでみてください。私はモンゴル料理をとても食べに行きたくなりました。

 

最後に主要な登場キャラについても。

アスラン、ミスラ、アスランの母、ミスラの姉と男性1名、女性3名です。ここにアスランの友人がちょろっと登場です。
女性陣はいずれもたくましかったです。なかでもアスラン母は強かった……
そりゃあ息子から「結婚するわ、じゃあ」と手紙だけ送りつけられて、結婚の事後連絡とか荒ぶるのもやむなし。アスラン母は嵐のようなキャラでパワフルでした。

急な嫁入りを巡っての家族の騒動もまた刺激的で面白かったです。

 

2巻目の感想

1年の間をおいて2巻目がでました。GAGAGAの編集部さん、本当にありがとう!
よんだよってコメントをあんまり目にしなかったので、単巻ものだと思い込んでしまっていました。

ちなみに2巻目のタイトルは、『嫁入りエルフの新婚紀行』。2巻ってついていないので、続きものだと気づかないで手に取った方がいるかも??

 

いやあミスラさんの新妻っぽさは、とっても可愛らしいですね。アスランにすっかり心を開いて、ラブラブ夫婦だこと。
恋愛には奥手でアスランにみせる恥じらいは、初々しくて新妻感が際立ちます。うっかり閨房術の本をよんでしまって、顔真っ赤になるミスラさんが可愛すぎました。

この夫婦の距離感は基本的に夫であるアスラン視点で、描かれているのも好きなところでした。夫婦なんだし結婚して数ヶ月経つのに……と感じるアスランと、恥ずかしいものは恥ずかしいんですって、ミスラとの温度差は1巻目にもあった文化・風習に通じるところがあり、時間をかけてしりあっていく過程がよかったですねえ。

それに旅先でも遊牧民スタイルで自給自足しようとするミスラさんは、みていて微笑ましいかぎりでした。

 

さて2巻目で印象的だったのは、錬金術と新婚旅行についてです。

錬金術のところは、アスランの研修テーマとなる鉱物知識が大量にできていました。石炭を脱硫してコークスにするとか、硫黄を抽出して商業利用とか一気に専門的になってます。なかでも作中にあった黄色ってのは光にあたって退色しやすいのは、本の背表紙が変色するので実感していましたが、鉱物のトパーズまで色抜けするのは初めてしりました。
この作品をよむと雑学を大量摂取できます。

そしてアスランはかなり優秀な錬金術師で、実績も知識もバッチリ、カッコいい旦那さまだってのがわかりましたね。それでいてミスラさんに対し、あそこまで気配りができるんだもんなあ。
観察眼にも優れていますし、かっこよかったです。
「探しにきたんじゃない」「捕まえにきたんだ」のところは、大変にテンションが爆上がるシーンで堪能いたしました。

 

そして新婚旅行の部分です。

BSの旅番組を視ているかのように、土地による文化の差を感じられ、みたことがない地域を旅しているかのような気分になりました。人間とエルフの関係も遠く離れると変化して、それにあわせて言葉も変わって方言として表現しているのなんて、素晴らしい描き方だと思います。同じエルフでも言葉が違い、人間と近い地域では人間の言葉が、エルフの言葉に単語に組み込まれているって世界観は、作中世界の解像度がグッっと上がる感じを覚えました。旅ものとしても素晴らしいです。

 

あとがきで本作の設定の元にした地域について、種明かしをしてくれています。その地域はよんでたら納得の地域で、そう思えるよう徹底して文化を寄せてくれていました。
なかでも分かりやすいのが食です。1巻目では乳製品まつりな遊牧民の食生活で、畑でとれて日持ちしない野菜は高級品との食生活でした。

2巻目ではヨーグルトの他にトマト、ピスタチオにザクロと現代日本人には、馴染み薄い調理食材のオンパレードです。だいたい料理名がでてきても料理の映像がサッパリうかびませんからね。モロッコやトルコの料理ではありませんでしたし。

食材と雰囲気からイランかアラビア半島あたりなのかなあ……で、ググったら案の定、実在する料理でした。
以下は一例です。

ファールーデ

でんぷんから作った細い麺を半解凍にし、ローズシロップをかけ、レモンやライム、ザクロで仕上げた氷菓子。
紀元前2500年発祥らしい??

 

料理の説明はほぼ上記の通りです。説明されてもどんな料理か想像できませんよね? もうそんな料理ばっかりでした。
どんな料理か気になってググり、国内で食べられる専門店もググって、全然近所にないじゃん!と感じたのは私だけじゃないハズ。

壮大な旅行記としても面白かったです。

 

文化とか価値観とか細かな描写が卓越した作品で楽しかったです。
こういう作者の好きがつまった作品をもっとよみたいです。

 

とてもとても面白いのでちょっとでも気になった方は、是非買ってみてください。

 

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