海辺の町で間借り暮らし【ライト文芸感想】

海辺の町で間借り暮らし
著:守雨
イラスト:水輿ゆい
出版:富士見L文庫

  海辺の町で間借り暮らし

アマゾンのあらすじより

30歳の私と、50歳の桂木さん。この町で、ゆっくり恋を始めます。

安住の地と定めた海辺の町に引っ越した紗枝。ところがその晩、家が全焼。途方に暮れる紗枝に手を差し伸べたのは、隣人の桂木だった。紗枝は30歳、桂木は50歳。20歳差の二人の同居が始まった。
過去を隠して根無し草のように生きてきた紗枝。美しい容姿と能力の高さで常に他人の興味を引き、疲れてしまった桂木。だからこそ、つかず離れずの距離感を守った同居が心地よかった。しかし、紗枝に東京の刑事から電話があり――。
おいしいものがたくさんあり、ゆったり時間が流れるこの町で始まる、歳の差ラブストーリー。

感想

守雨さんの作品で”年の差20歳、やさしい恋。” この宣伝文句にたっぷり期待値を高めて、たっぷりと堪能しました。やっぱり面白かった。

 

年を重ねた大人の恋。おくびょうな恋です。
燃え上がるような恋。運命の出会い。身を焦がすような恋ではありません。

 

この穏やかでやさしい恋が、私のように年を重ねた身へは刺さります。そうなんですよね。勢いに身を任せることはできず、ついつい頭の中で余計なことを考えてしまうんですよね。
この距離感は、過去作『スープの森』でも近いもの感じます。あの作品が好きな方には、本作も全力でオススメします。

 

そうですね、幸せになるのを我慢しなくていいんですよね。

 

 

まず設定からして絶妙です。

登場人物の紗枝は、両親のとんでもないしでかしにより、転々とした不安定な暮らしを強いられたアラサーです。そして移住初日にマイホームから焼け出されるという不運すぎる女性です。

そんな彼女に手を差し伸べたのが、アラフィフの桂木。立ち上げた会社を売却して何不自由ない暮らしなイケメンです。ただ彼にもモテ過ぎるのも困りもので、女性から過度な束縛を受け続けてた暗い過去があります。
だから恋愛はもう十分。でも若い頃に苦しんでいた女性部下を救えなかった過去から、心底苦しんでいる女性を放っておけない性分でもあります。

そこで桂木が焼け出された紗枝に声をかけたことから始まる物語です。

 

前半のお互いに見えない壁を立てて、距離をとり続けようとする接し方は、おくびょうな恋の仕方だなぁと感じます。

でもこの時はこれが正解なんだと思います。紗枝のこれまでの人生からしてみれば、人は離れていくもの。好感を抱く相手であればあるほど迷惑をかけたくなくて、自分から離れていってしまうでしょうからね。

この紗枝の考えも後半になると桂木のやさしさに触れ、彼の過去を知り、正直な気持ちに向き合うように変わっていって素敵でしたね。幸せになるのをもう我慢しなくていいんだよって、紗枝にいってやりたいです。

 

そしてやはりアラサーとアラフィフの設定が巧みだと思います。

親子ほどの年の差ですが、桂木の外見は若くて、紗枝と並ぶと年の差カップルなんですよね。恋が生まれそうで生まれない絶妙なとこです。
これが30歳なら完全に親子で恋へは発展しないでしょうね。そして10歳差なら紗枝が警戒して、桂木の救いを拒んでいたような気がします。

このほかにも前半で発した言葉が、後半で様々なところにつながっています。あの発言はそういう人生を歩んできたからなのかと、伏線もたっぷりで楽しいです。物語のうまさを感じます。

 

あといえるのはとてもお腹がすく物語でもあります。

食事のシーンは多いです。ただお味噌汁とかアジフライトか出てくる料理は、庶民的なのが大半です。
それでいて良い素材を用いて、丁寧な一手間をかけた料理ばかり出てくるんですよ。だから豪華なわけじゃないんですが、ものすごく贅沢な食事だなぁって感じました。

どんな素敵な食がでてくるのかも楽しみな場面でした

 

とても良いお話でした。コミカライズも決まっていますので、そちらも楽しみです。

 

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