先生とそのお布団 【ラノベ感想】
アマゾンのあらすじより
まだ「何者」にもなれない「誰か」へ――。家に猫がいる者ならたいてい「うちの猫は特別だ」という。だが彼とともにいた猫は本当に特別だった。九年間、小説を書くときにはいつもそばにその猫がいた。その猫がいなければ小説なんて書けなかった。彼は猫を飼っていたわけではなかった。ただ猫とともに暮らしていた。――本文より抜粋これは石川布団という作家と、人語を解す「先生」と呼ばれる不思議な猫とがつむぎ合う苦悩の日々。企画のボツ、原稿へのダメ出し、打ち切り、他社への持ち込みetc…様々な挫折と障害に揉まれながらも、布団は小説を書き続ける。時には読者に励まされ、時には作家仲間に叱咤され、ひとつひとつの出来事に、一喜一憂していきながら、素直に、愚直に、丁寧に、時にくじけて「先生」に優しく厳しく叱咤激励されながら――。これは売れないライトノベル作家と「先生」とが紡ぎ合う、己が望む「何か」にまだ辿り着かぬ人々へのエール。優しく、そして暖かな執筆譚。カクヨムで話題を呼んだ、奇才・石川博品の同名短編小説を、大幅加筆修正した完全版。
感想
作品を出すことは出来てもヒットに恵まれないラノベ作家の苦悩や、表現することへの熱い思いがあふれた大変に素晴らしい作品です。ラノベの体をとっていますが、作風も読後感もラノベのそれとは全く異なります。よくガガガ文庫ででたなぁと思います。ライト文芸といわれるレーベルでても違和感を感じない雰囲気です。
本作は「この物語はフィクションです。実在の人物団体とは一切関係ありません。」とあるのでそう受け止めます。巻末にある本書のプロフィールが、web投稿→同人短編→出版長編と作中にそっくりなのがあったり、著者の出版歴がなんか似ている気がしますがフィクションです。フィクションらしさとして主人公は、人語を解するネコと同居しています。このネコが執筆に明るくて主人公を導き、時に叱咤激励する「先生」の役を担います。くじけそうになる主人公を支える心の声的なポジションです。なんとも現実は大変で本を出せない、出せても続きを出せないと苦難の連続です。出てくるエピソードの数々に生々しいリアリティが感じられて、読んでいる感覚はザ・ノンフィクションです。それぐらい迫力に満ちています。創作への強い思いが伝わってきます。
また執筆した文章を推敲する場面も登場します。その中で登場人物は○○と××と分かるからシーンだから誰がしゃべったかは省こうとか、描写をイメージして単語を変えるなど創作の一面を見られるのはとても興味深かったです。読者としてスルスル読める・自然に風景が浮かぶって文章が、こうやって創られていると知ると作家のすごさを再確認します。
社会人ならどこかしら共感する箇所があるんじゃないかと思います。「先生」が文豪より主人公が勝っていると諭すシーンでこういうのがあります。「彼らはもう書けない。主人公はまだ書ける」という旨を話すシーンです。なんかグッときませんか? 私は本を書くわけじゃありませんが、なんか明日もまたがんばろうって気持ちになりました。
素敵な作品です。小説の投稿など創作活動をされる方なら、私以上に深く読み込める作品では無いかと思います。オススメです。
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